Serendip Pharmacy & Pharmacist

教 育

未経験から始めた在宅訪問服薬指導
~癌終末期患者を受け持ち日々奮闘

アクア薬局本店 佐田 悦子氏


在宅訪問服薬指導に携わりたいが、その機会がなかなか得られない―そう考えている薬剤師は多いのではないでしょうか。長崎市のアクア薬局本店管理薬剤師の佐田悦子氏も、長年、訪問指導を実践したいと考えていた1人でした。そんな佐田氏が訪問指導を行うきっかけになったのは、長崎市内の有志の薬局が作る長崎在宅研究会(Pネット:関連記事はこちら)に参加したことでした。

思い切って飛び込んだ在宅の世界

Pネットは、長崎市内の有志薬局が2007年7月に設立した会。在宅患者の訪問指導の依頼を事務局が一括して受け付け、担当する薬局を決める仕組みです。同時に、サポート薬局を決め、二人三脚で訪問服薬指導を担当する体制を敷いています。


整形外科を中心に、1日80?100枚程度の処方せんを応需するアクア薬局本店。

そのPネットが、2007年12月に第一号患者さんを受け付け、その担当薬局に、患者宅からもっとも近かったアクア薬局が決まりました。佐田氏は「それまでに、Pネットの研修会などで訪問薬指導に関する勉強をしていましたが、実際に患者さん宅を訪問するのは初めてで、とても緊張しました」と当時を振り返ります。しかも患者さんは、がんのターミナル(終末期)。「尻込みする気持ちもありましたが、ここで断ったら何も変わらないので、思い切って飛び込みました」と話します。

佐田氏は、患者さんの主治医である井上病院の松尾誠司先生に「訪問指導の経験はないのですが大丈夫でしょうか」と聞いたところ、「誰でも最初は経験がないんだから大丈夫」と心強い一言をいただき、「勇気づけられ、第一歩が踏み出せた」と話します。

忙しいけれど、やりがいも倍増

それから、佐田氏の奮闘の日々が始まりました。「薬局の窓口での服薬指導との違いにとまどうことが多かった」と佐田氏。特に、「薬剤師は、患者さんの病状の変化を観ることに慣れていないことを痛感させられた」といいます。ターミナルの患者さんは、病状が日々変化します。状態によって処方変更になることもあり、薬剤師が訪問した際に症状を確認し、医師に連絡・確認する必要もあります。

副作用の発現や痛みのチェックも大切な仕事です。「最初のころは、ポイントがつかめず毎日のように患者宅に様子を観に行っていました」と佐田氏。来局患者が比較的少ない午後の時間に患者宅に出掛けるため、薬局の雑務をこなしたり薬歴を記載するために夜遅くまで薬局で仕事をすることが増えました。しかし何人かの患者さんを経験するうちに、だいたいの流れが把握できるようになり、「徐々に効率的に動けるようになってきた」といいます。

一方、「勉強する時間は、以前と比べものにならないくらいに増えています」と佐田氏。オピオイド鎮痛剤(麻薬性鎮痛剤)の使い方の基本はもちろん、がんの終末期に起こる症状と使用薬剤など、「学ぶことがいっぱいある」と話します。

また、例えば、大腸がんで人口肛門を造設している患者さんなら、ストーマについての知識が必要になります。「直接、ケアをしたり指導することはありませんが、知っておかないと患者さんや家族、他の医療スタッフと話ができませんから」(佐田氏)。

配慮の足りなさを医師が厳しく指摘

さらに佐田氏は、「患者宅で活動する難しさ」を指摘します。以前、こんなことがありました。患者さんが、薬の副作用と思われる口渇を訴えていたため、医師に指示をもらおうと患者宅から電話をしたときのこと。医師の「佐田先生、どこから電話かけているの」との問いに、「患者さんのお宅からです」と佐田氏が答えた途端、「なんで患者さんに聞こえる場所から電話をしてくるの!」という医師の厳しい声が返ってきました。
「その患者さんは、これまでも化学療法やオピオイド鎮痛剤でつらい思いをされてきたので、副作用のことをずいぶん気にしておられたようです。その患者さんの目の前で、『この薬が原因だと思いますがどうしましょうか』と言ってしまったことに、医師は『配慮が足りない』と怒ったのです」(佐田氏)。

薬局であれば、疑義照会は調剤室の中の電話から行うことがほとんど。その内容が患者さんの耳に入ることはあまりありません。同じような調子で、電話をしてしまったことが失敗の原因でした。佐田氏は「在宅では、患者さんとご家族の側に立って配慮することが求められます」と話します。

在宅訪問指導を初めて10ヶ月。すでに複数のがんのターミナル患者さんを担当してきた佐田氏。「在宅を始める前に比べて、とにかく忙しくなりましたが、その分やりがいも大きい」と強調します。患者さんやご家族と深く関わり、「薬剤師の視点で話しができることが、医療者としてのやりがいにつながっている」といいます。そして、「とにかく飛び込んでみること。最初は緊張しますが、医師や看護師、患者さんやご家族に教えられながら、経験を重ねていけばいいと思います」(佐田氏)。

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