Serendip Pharmacy & Pharmacist

教 育

一人薬剤師でも在宅指導に挑戦!

ペンギン薬局 中村美喜子氏


長崎市のペンギン薬局が本格的に在宅訪問服薬指導を始めたのは2008年1月。以来、医師やケアマネージャーから在宅患者さんの紹介で常時3?5人の在宅患者さんを担当しています。

ペンギン薬局は、開設者の中村美喜子氏1人の、いわゆる「1人薬剤師」の薬局です。「開局時間中に、どうしてもすぐに薬を届ける必要があるときは、薬局に『薬剤師不在』の貼紙をして出掛けます。薬剤師の不在時に来局した患者さんには、後で薬を届けるようにしています」と説明する中村氏。1人薬剤師の薬局でも、やりくり次第で在宅訪問指導に携わることが可能だと話します。

長崎市内の薬局有志で設立した長崎在宅医療研究会(Pネット)に参加していることも、いざというときに役立ちます。Pネットでは、担当薬局以外にサポート薬局を決めているので、何らかの理由で担当薬局が訪問できないときには、代わりにサポート薬局が患者宅を訪問する体制があります(関連記事)。「実際に、サポート薬局にお願いすることはほとんどありませんが、地域の薬局どうしが助け合えるシステムがある心強さがあります」(中村氏)。

先を読むことで業務がスムーズに

在宅訪問服薬指導には「先を見越す目を持つことが大切」と中村氏。初めてがんのターミナル患者さんを担当したとき、医師からの「今すぐ、患者さん宅に浣腸を持って行ってくれ」との緊急連絡に慌てたことがあったそう。「薬局に指定された浣腸の在庫がなく、知り合いの薬局に薬を借りて患者宅に走りました。浣腸だったから対応できたけれど、オピオイド鎮痛剤だったら薬を調達するのが難しかったかも」と中村氏。事態に直面してから手配するのでは対応できなくなるケースがあると痛感し、「できるだけ先のことを考えるようになった」と話します。

例えば、オピオイド鎮痛剤の副作用である便秘の状況は常に患者さんに確認し、必要に応じて医師に連絡。がんのターミナル患者さんの痛みの管理に関しては、休みの前にはオピオイド鎮痛剤のレスキュードーズは多めに用意しておくように医師にも連絡します。また、患者さんの病状がどう変化していくか、経口剤が飲めなくなったときの対応なども予め医師に確認し、事前に準備します。

「予測できないことの方が多いのですが、常に先の準備をしておくように心掛けることでこちらも動きやすくなりますし、患者さんも安心できます。突然の呼び出しにもすぐに対応できます」(中村氏)。

それぞれの人生に合わせたサポートを

「在宅訪問指導は、患者さんの生活や人生を見ることだと、つくづく感じています」と話す中村先生。「薬局の窓口では見えない患者さんの生活や人生まで垣間見る機会がある」と言います。それだけに、患者さん1人ひとりに合ったサービスが求められます。

例えば、「仕事でそれなりの立場におられた方は、病気になってもいろんなことを自分で管理しようとする方が多い」と中村氏。ある男性患者さんは、薬に関しても「自分で管理する」と言い、一包化を嫌がりました。「PTPシートから薬を出してしまうと何の薬かわからなくなるので、『自分で薬の調節ができなくなる』と患者さんは主張するのです」と中村氏は苦笑い。薬剤師としては、「患者さんご自身での調節はせずに、とにかく医師の処方通りに飲んでください」と言いたいところですが、そう言ってしまっては患者さんに受け入れてもらえません。とはいえ、その患者さんは服用薬の種類が多く、糖尿病網膜症で視力が落ちていることから、一包化なしで服薬管理がきちんとできそうにありません。そこで中村氏は、薬をPTP包装のまま1回服用分ごとに分け、ジッパー付のビニール袋に入れ、袋に「夕食後」など服薬時点のシールを貼っておくという工夫を実施。手間はかかりましたが、「ぶつぶつ言いながらも、薬をきちんと飲んでくれるようになりました」。自分で管理できるという安心感が、患者さんの服薬意欲を高めたようです。

また、視力が落ちている患者さんに見やすいように、大きな文字で書いた薬の説明書を用意するなど、その患者さんが自分で管理できるような方法を提案しています。

「がんのターミナル患者さんのケースでは、最期の日々を自宅でおだやかに暮らされている様子を見させていただくことも多い」と中村氏。薬を届けに行くと、患者さんが奥様と一緒に遺影を選んでいたこともあったそうです。「患者さんが亡くなられた後、奥様が『自宅で十分に世話ができて、何も思い残すことがない』と明るく私たちに感謝の言葉を言ってくださった。そんな姿を見て『自宅で亡くなること』の意味を改めて考えさせられました」と言います。そんな最期の生き様を支える医療スタッフの一員として参加することは、「薬剤師として大きなやりがいにつながる」と中村氏は、在宅訪問服薬指導にたずさわることのすばらしさを話しています。

真夏に10kgの輸液を背負って患者宅へ


中村氏が作った即席の背負子。ここに輸液を10袋乗せ、背負って患者宅まで階段を上ったそうです。

海に面した山に貼りつくように家が建ち並ぶ長崎市。在宅訪問には、他の地域にない苦労があります。その苦労に、中村氏が直面したのは7月の暑い盛りでした。
担当することになった患者さんは、食道がんのターミナルで経管静脈栄養法を行っていました。医師からの「輸液を10袋、運んでほしい」という指示に、「今日中に届けておきまーす」と、いつものようにフットワーク良く答えた中村氏。地図を見て愕然となったそうです。

なんと、患者さん宅は道路が整備されていない坂の上。訪問するには階段を上るしかありません。車はおろか台車すら使えず、しかも輸液10袋の重さは10㎏以上。「でも、行くしかない!」と覚悟を決めて、荷物を運搬するキャリーカートとカバンのショルダーを利用して即席の背負子(しょいこ)を作り(写真)、輸液10袋を背負って階段を上ったそうです。 「学生時代にワンゲル部だった経験が、ここで生かされるとは思わなかった」と笑う中村氏。在宅訪問服薬指導では、いろいろな経験と工夫が求められるようです。

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